この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第十九話「裏方」

time 2015/11/12

第十九話「裏方」
 大学受験のために来た東京で、初めて訪れた新宿歌舞伎町は、華やかで煌めいていて、でもアンダーグランドの匂いがして、怖い街だった。もう何度目かなんて分からないけど、いまだに威圧感を感じなくはない。行き交う人たちを見ながら「あのオッサン、ヤクザちゃうかな」と思い始めると、すれ違うオッサンたち全員がヤクザのような気もする。

 俺の向かう先は、やっぱりファッションヘルス。初めて行く店なので、上を向いて看板を見ながら歩いていると、周りから次々と呼び込み達が声を掛けてくる。自分の行きたい店くらい自分で決めるから、わざわざ声を掛けてもらわなくても大丈夫なんだけど、「もう決まってるんで。」と軽くあしらって、目的の店を探す。

 ファッションヘルス「クリスタル」の看板を発見した。歌舞伎町には似たような名前の店がいくつもあるから、念のため持ってきた新聞の切り抜きをもう一度確認してから、三階まで階段を昇る。店の前に着いて、ひと呼吸おいてから、店内に入る。初めて入る店では、いつも少し緊張感があるんだけど、今日はさらに緊張している。

「いらっしゃいませ。こんにちは。」
「あ、あのー。」
「ご指名の女の子は、いらっしゃいますか?」
「いえ、アルバイトの面接に・・・」

 面接という言葉を聞いた途端、受付のお兄さんからは笑顔が消え、「ソッチから入ってー」と口調も変わった。お兄さんに促されて入った部屋は、事務机がふたつ置いてある普通のオフィスのような部屋だ。客が通される待合室のようなゴテゴテとした装飾はなく、照明も普通の蛍光灯で、ボロボロになった看板や、書類やダンボールが、騒然と積まれている。

 表の有線放送の音が、かすかに聞こえるけど、この部屋は静まり返っている。「ここに座ってて」と言われてから、もう一時間ほど待っているけど、たまに従業員が何かを取りに来るだけで、俺に話しかける人は誰もいない。トイレに行きたいんだけど、立ち上がって良いのかどうかも分からないから、勝手に出歩く訳にもいかない。

「どうして?働きたいの?」と突然、後ろから大声がした。

「どうして働きたいの?」と同じ台詞が聞こえて、自分に問いかけれれていることに気づいたけど、すぐに言葉が出てこない。スーツを来た男性が、目の前の事務机に座って、俺の持参した履歴書を持って、もう一度、同じ質問をした。

「風俗に興味があるんで、応募させていただきました。」
「お客さんじゃなくて、バイトだよね?」
「はい、そうです。」
「他所では、働いたことないんだよね?」
「はい、ありません。」
「大学生なんだ。」
「はい、そうです。」
「ふーん、京都の出身なんだ。」
「はい、そうです。中学と高校は、松山やったんですけど。」
「大学生。」
「はい。」

 履歴書に書いてある内容をひと通り聞かれて、「はい。」と答えていたら、面接は終わった。男性が机の引き出しを開けて、紙を一枚取り出し、ボールペンと一緒に俺に差し出して、「これにサインだけして、今日は帰って良いよ。」と言った。書類には「店で働いている女性従業員とは交際いたしません。」とだけ書かれている。

 どうやら採用されたようだ。女の子との出会いを求めて働いたミスタードーナツや、ビリヤードやりたい放題に惹かれて勤めたプールバーとは全く違う面接に、かなり怖気づいたけど、新宿歌舞伎町の裏の世界を覗いてみたいという興味本位で申し込んだアルバイトに採用された。

「すみません。トイレどこですか?」
「うん?そこの奥。」
「はい、すみません。」

 ずっと我慢していた小便を済ませ、そそくさと店を出ようとしたら、天井から吊り下げられた黒いカーテンの隙間から、女の子たちが下着姿のままでタバコを吸いながら話をしているのが見えた。そのうちの一人と目が合ったような気がしたけど、見てはいけない物を見てしまった気がして、急いでその場を離れ、受付のお兄さんに「よろしくお願いします。」とだけ言って、歌舞伎町の街に出た。

 今日から、ここは俺の仕事場だ。新宿歌舞伎町の裏の世界の扉を開いたような気がして、とても嬉しい。

コクヨ 履歴書 A4(A3二つ折り) 大型封筒3枚付 3セット シン-5JNX3 コクヨ 履歴書 A4(A3二つ折り) 大型封筒3枚付 3セット シン-5JNX3

コクヨ
売り上げランキング : 750

Amazonで詳しく見る by AZlink

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 

 


sponsored link