この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第十四話「大株主」

time 2015/11/05

第十四話「大株主」
 俺が京都へ帰ると、オヤジは俺を連れて、祇園の高級クラブに行きたがる。俺にクラブでの遊び方を教えてくれたのはオヤジで、最初のころは大人の世界を垣間見れると大喜びで連れて行かれたんだけど、このところ、ちょっと遠慮したいと思い始めている。

「ヒロキは今な、女優さんみたいなベッピンと付き合ってんねんで。」
「あら、すごいやんか。」
「ビリヤードの大会に出たら、優勝ばっかりしてんねん。」
「ヒロキくんは、すごいんやねぇ。」
「大学が国際学部やから、国際電話ばっかり掛けて、ひと月の電話代が50万円やねんで。」
「外国のひとと、電話しはるんやね。すごいわぁ。」
 
 酒の量が増えるにつれて、どんどん話が大きくなり、次々とハシゴしながら同じ話を繰り返すものだから、オヤジが酔い潰れる頃には、俺は小説の主人公かのような逸話を山ほど持った大学生に仕上がってしまう。オヤジの話を「いや、そうやないんですよ。」と否定するんだけど、それがまた謙遜しているかのように受け取られて、「ほんま、すごいんやねぇ。」と、さらに居心地が悪くなっていく。

「NTTさんには稼がせて貰ったからな。ヒロキがNTTさんに還元しとんねん。」
「そうやな。息子さんのおかげで、儲かったみたいなもんや。」
「そやで。お客様のおかげや。NTTさんには、しっかり儲けてもらわんと。」
「大株主さんやからな。」
「大株主ちゃうがな。ほーんのちょっと株主や。」

 日本経済は順風満帆で、日経平均株価は三万円を超えて、まだまだ伸びそうだ。その勢いに乗って、去年の2月に上場したNTTの株式もグングン上がって、NTT株長者と呼ばれる人たちが生まれた。これくらいのことは、テレビのニュースを見て知っている。昔から株式投資をやっているとは聞いていたけど、まさかオヤジが話題のNTT株長者だったとは知らなかった。そういえば、さっきの店でもオヤジは「大株主」って呼ばれていた。

 ボケているどころか、時代の最先端を走っているオヤジに、ひと安心した。それと同時に、自分の力で大金を稼いで、祇園の高級クラブを飲み歩いて大騒ぎしているオヤジが、とても輝いて見えた。株がどこで買えるのか知らないし、元手のない俺には株で儲けるのは難しそうだけど、俺に出来る金儲けの方法を見つけないといけない。

「若いのに、なに難しい顔してるの。」
「いや、酔っ払ってしまいました。」
「ぜんぜん飲んでないやんか。もっと飲みよし。」
「あ、はい、はい。」
「“はい”は、一回やで。学校で習ったやろ。」
「はい・・・」
「ほんま、親の顔が見たいわー。って、目の前におりはるやん。アハハハ」
 
 最後まで満面の笑みを浮かべて上機嫌のオヤジと一緒にタクシーに乗り、祇園からの帰り道、俺は「一生懸命に頑張るわ。」と言った。もう目がショボショボとして今にも眠りに落ちそうなオヤジの耳には、俺の言葉は届いていないようだけど、「ヒロキは凄い男やで。思いっきりやれよ。」と、オヤジが寝言のように呟いた。

「もう東京に帰るんか。」
「色々と用事があるからな。」
「お前は、忙しないなぁ。」
「昨日の晩も面白かったわ。ありがとう。」
「面白かったか。良かったわ。」
「ちょっと電話、借りるで。」

 俺にとって“用事”というのは、ひとつしかない。伝言ダイヤルで、今晩のガールフレンドのメッセージを確認する。ずっとタイミングが合わなくて会えなかったヤスエちゃんに、今晩は会えそうだ。新宿の喫茶店で待ってるとメッセージを入れて、準備完了。

 オヤジに駅まで送ってもらい、急いで切符を買って、階段を駆け上がる。未だ見ぬジュンコちゃんに思いを馳せながら、足取りは軽い。一本でも早い新幹線に乗りたい。ホームに着くと「まもなく1番線から東京行きの電車が出発します。」のアナウンスが流れた。勢いよく新幹線に乗り込もうとした瞬間、重要なことを思い出した。アキコにお土産を買っていない。

 たった今、昇ってきたばかりの階段を降り、お土産物の売り場へと向かう。俺の帰りを楽しみにしてくれているアキコに、手ぶらで会うわけにはいかない。あと二日間は京都にいることになっているから、日持ちのする和菓子を選ぶ。日付を見られて嘘がバレないように、レシートをゴミ箱に捨てて、ホームへと向かう。

「今から新幹線で駆けつけるから、ヤスエちゃん、待っててや!」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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