この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第十三話「ええねん。」

time 2015/11/04

第十三話「ええねん。」
 新幹線を降りて京都の空気を吸うと、安心感を覚える。中学一年生で四国・松山の学生寮に入って以来ずっと、実家を離れて生活しているけど、やっぱり自分の心のどこか奥底には、京都の人間だという記憶が残っているようだ。いや、離れて暮らしているからこそ、地元への情が強くなっているのかもしれない。
 
午前十一時、太陽が出て日差しがあるものの、冬の京都は冷える。

「ヒロキ、腹へってないんか?」
「まだ、減ってない。」
「とりあえず、家に帰ろか。」
「そやな。」

 いつも不思議なんだけど、俺が京都駅に着くと、オヤジは改札で俺を出迎えてくれる。もちろん、京都に帰るという連絡はする。何日に帰るとは伝えてあるんだけど、何時とまでは言っていない。それでもオヤジはいつも、改札で出迎えてくれる。もしも俺が急に気分が変わって帰るのをやめたら、オヤジは終電まで、ここで待っているのだろうか。

 家に向かう車中で、今晩の予定について話し合う。これも俺が帰省した時のお決まりのパターンで、俺が食べたいものを言い、オヤジが季節のことなどを考えながら、晩ご飯の店を決める。あまり季節外れの食材を言うとオヤジが困った表情をするので、俺も少しは予習しておいて、京都の四季に合わせたものを言うようにしている。

 

 それから、電話代15万円のことを謝った。伝言ダイヤルを使って女遊びをしていて高額な請求になったんだと正直に話して詫びるつもりだったけど、息子の学業を助けるために大金を払ったんだと思い込んでいる親が、現実を知ってガッカリするのは可哀想だと思ったので、ただ電話代の請求金額が大きくなってしまったことだけを謝った。

 

「ええねん。NTTには多めに払いたいくらいや。」
「オヤジ、熱でもあるんか。」
「ちょっとぐらい、ええねん。ええねん。」

 

 オヤジは、いわゆる関西人のイメージとして関東の人間が思い込んでいるような“ケチ”な性格ではない。使うべきところには十分な金額を使うべきだという考えで、俺に対しても先行投資だと言って、大学の学費だけではなく、アパートの家賃や光熱費も払ってくれているし、月々の仕送りもしてくれていて、さらに免許を取ったら現金三百万円をスグに送金してくれた。それでも、電話代15万円に対して「ええねん。」と笑顔で言っているオヤジを見て、いよいよボケが始まったのかと心配になった。
 
「アキコっていう、めっちゃ美人と付き合ってんねん。」
「おお、ええなぁ。大学卒業したら結婚せえ。」
「まだアキコは高校生や。気が早いわ。」
「そうか。そうか。」
「ビリヤードの大会で優勝してん。」
「おお、ええなぁ。プロになるか。」
「小さい小さい大会で優勝しただけやから、無理やって。」
「そうか。そうか。」

 

 たまに帰ってきた息子のとりとめもない話を、オヤジは嬉しそうに聞く。そして、できるだけ大きな目標を持つようにと、そっと背中を押してくれる。弟は、俺とオヤジの関係を見て「兄ちゃんばっかり可愛がられてるなぁ。」と、羨ましそうに言うんだけど、ここまで可愛がられると、居心地の悪さを感じることもある。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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