この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第十二話「玉突き」

time 2015/11/03

第十二話「玉突き」
 ハリウッド映画『ハスラー2』が劇場公開されてから2年が経つ。この2年間で東京や横浜の繁華街には、ビリヤード台を置いたプールバーが次々とオープンした。まるで自分がトム・クルーズが演じたビンセントになったかのように、猫も杓子もビリヤードに夢中になっている。もちろん、俺も、そのひとり。

 今日のデートは、プールバーだ。ビリヤードを始めたばかりの頃は、上手くなれば女の子にモテるんじゃないかと思っていたけど、いつの間にか、純粋にスポーツとしての楽しさにハマった。緑のラシャの上で、自分の突いた球が、自分の思い描いた通りに動き回り、狙った球がポケットに落ちていく。この瞬間が、たまらない。女の子の視線を感じつつ、悦に入る。

「お、ヒロキじゃん。また伝言ダイヤルかよ?」

「“また”ってなんやねん。“また”って。」
「また、カワイイ女の子を連れてるからさぁ。」
「何を言うてんねん。おもろいなぁ。ホンマに、お前は。」

 男の敵は男だ。とくに、口が軽くて、頭の回らない男は敵だ。どうして、こんな所で高木と会ってしまうんだろうかと自分の運の悪さを恨んでも仕方がない。ヘラヘラと笑いながら立ち去った高木の野郎は、そのうち、みっちりと説教するとして、まずは、顔全体にハテナマークを浮かべて隣に立っているアキコの対応が先だ。

「ヒロくん、伝言ダイヤルって何?」
「え?なになに、なんのこと?」
「ほら、いま、高木さんが言ってたよ、伝言ダイヤルって。」
「ああ、その伝言ダイヤルのことか。」

 やっぱりアキコに聞かれていた。これは非常にヤバい。アキコの口から“伝言ダイヤル“という言葉が発せられている。これは夢か。いや、夢じゃない。頬をツネるまでもなく、夢じゃない。夢であって欲しいけど、夢じゃない。夢だったらラッキーだけど、うん、これは間違いなく、

「夢じゃない。」 
「え?なに、ユメ?ヒロくん、どうしたの?」
「え、あの、ゆめ、ゆぅめぇ、あっ、有名じゃない?」
「はぁ?」
「いや、だから、伝言ダイヤルって有名じゃない?って言うたんや。」
「わたし、知らないよ。なに?その伝言ダイヤルって。」

 まだ高校3年生のアキコが、伝言ダイヤルを知らなくても不思議じゃない。特にアキコは、毎日のようにラブレターやプレゼントを受け取り、周りにいる男たち全員がアキコに惚れているというような日常を過ごしているので、わざわざ電話を使って“出会い”を求めることなど、想像さえ出来ないだろう。

 先週の金曜日には、オヤジから、伝言ダイヤルでかかった電話代15万円を問い詰められたばかりだし、伝言ダイヤルに夢中になるのも、そろそろ潮時かもしれない。ほんと15万円って、とんでもない金額だ。さすがに調子に乗りすぎた。オヤジには正直に言って、謝った方が良いかもしれない。すまん、オヤジ。

「ねえ、ヒロくんってばぁ。」
「なんや、オヤジ・・・」
「え、オヤジ?お父さんが、どうかしたの?」
「えーっと、あの、そやなー、」
「ん?なになに?」
「オヤジが、伝言ダイヤルで連絡して来てん。」
「何の連絡?」
「たまには京都にも帰って来いって。」
「あ、そうなんだ。」
「俺、自分の部屋におる時間が少ないやろ。だからな、アパートに電話しても全く繋がれへんって、伝言ダイヤルっていうのを使って、オヤジが連絡してきたんや。」
「へー、伝言ダイヤルって便利なんだね。」
「そうやねん。俺みたいに、親と離れて暮らしてる家族とかがおると、伝言ダイヤルってメッチャ便利やねん。」
「連絡したの?お父さんに。」
「いや、まだ、してへんよ。」
「早く連絡してあげた方が良いよ。心配しているかも。ヒロくんの部屋、留守番電話が付いてるのに、わざわざ伝言ダイヤルで連絡してくるんだもん。きっと・・・」

 俺はスグに立ち上がって、トイレの脇の公衆電話に向かう。実家の電話番号を回して、呼び出し音が鳴るのを待つ。いや、本当に実家に電話する用事なんて無かったんだ。上手く話が誤魔化せた喜びで、どうやら気持ちが動転しているらしい。急いで受話器を置こうとしたら、呼び出し音が止み、電話口から「はい。田附です。」とオヤジの声が聞こえた。

 「あ、オヤジ。ヒロキや、ヒロキ。」
 「おお、ヒロキか。どうした?」
 「明日、京都に帰るわ。」
 「分かった。明日やな。待ってるわ。(ガチャ)」

 俺は、なぜか急に、京都に帰ることになった。まるで玉突きのように。
 

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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