この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第十一話「稲村ヶ崎」

time 2015/11/02

第十一話「稲村ヶ崎」
 さっき出会ったばかりの女子大生の女の子を助手席に乗せて、県道204号線を鎌倉方面へと向かう。俺の愛車はホンダ・プレリュード、こいつを見て文句を言う女の子なんて居ない。もちろん、オヤジから貰った金で買ったクルマだけど、そんなことをわざわざ言う必要はない。
「なんで、俺と会おうって思ってくれたん?」
「タベルナ・ロンディーノ、行ってみたかったの。」
「それは、ちょうど良かったわ。」
「伝言ダイヤルを聞いて、ハッとして反応しちゃった。」
 伝言ダイヤルには、俺と同じように女の子のことばかり考えている若い男たちが日本全国から群がり、女の子の気を引こうと熾烈な闘いを繰り広げている。あの手この手と色んな作戦を使う男たちがいるんだけど、俺に言わせれば、みんな甘い。研究が足りないんだ。

 特に「今、暇してるから、暇な女の子、連絡ください。」なんてメッセージを入れている男は、ほんまのアホ。暇を持て余している男を魅力的だと思う女の子なんて皆無に等しいし、仮に女の子からの応答があったとしても、こんなメッセージに反応するようなアホな女と遊んで何が楽しいのか、理解に苦しむ。

 コムサデモードの黒いレザーコートを膝の上に乗せて、俺の横に座ってニコニコしているミカちゃんは、「ヒロキです!稲村ヶ崎でイタリアン食べたいなぁ。あのテラス席で一緒に食事してもいいよ!って子、連絡ください。」というメッセージに答えてくれた女の子。こういう「稲村ヶ崎」とか「イタリアン」とかのキーワードに返事してくる子は、想像力が豊かで、好奇心が旺盛で、会話が楽しい女の子が多い。

「ちょっと道が混んでるね。」
「そやなぁ。月曜日やのにクルマ多いわ。」
「渋滞って嫌いー。もう少しなのにー。」
「まぁ、渋滞が好きな人なんか、おらんで。」
「ヒロキくん、話が楽しいから退屈しないけどね。」

 本当は、さっきの道を左に折れて、住宅街のなかを抜けると渋滞を少しは避けることができるんだけど、どうして鎌倉の道路に詳しいのかとツッコミを入れられても困るので、抜け道を避けた。ダッシュボードの時計を確認すると、十六時を過ぎたばかり。少し渋滞するくらいが丁度いい。
 滑川の交差点を右折して、由比ヶ浜から海岸沿いの国道134号線に入る。助手席の窓の方に海が見えると、ミカちゃんが「うわー、うみー!」と叫んだ。どうして女の子は、海を見て「うみー」と声に出すんだろう。冬の海水浴場は、人影がなく寂しい。それでも、俺も海が好きだ。ミカちゃんに倣って「うみや、うみやー!」と叫んでみる。意外と楽しい。
 二人で声を合わせて「うみー!うみー!」と叫びながら、変なテンションで盛り上がっていると、突然、岩場が視界を遮って海が見えなくなった。子供が成長して大人になり、鎹(かすがい)を失った中年夫婦の食卓のように、海を失った車中は、しーんと静かになった。その次の瞬間、
「うわー!すごーい!」と、大声で叫ぶミカちゃん。
「綺麗な夕日やなぁ。真っ赤な夕日や。」
「あれが江の島だよね!」
「あれ、ずっと向こうに見えるのって富士山ちゃうかな。」
「ほんとだ、富士山だよ、富士山!」

 

 俺は、こんなデートが好きだ。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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