この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第十話「伝言ダイヤル」

time 2015/10/30

第十話「伝言ダイヤル」
 朝7時、アパートの自室の電話が鳴った。こんな時間に誰やねんと、ちょっとイラっとしたが、長々と鳴り続ける呼び出し音に根負けして、受話器を取った。
 
「ヒロキ、電話代が十五万円って、どういうことやねん。」
日本の電話の定番である「もしもし」を言わずに、いきなり用件を話し始めるのは、いつものオヤジのことだから良いとして、かなりお怒りなのが電話口から伝わってくる。
「あ、オヤジ。おはよう。」と、まずは白々しく挨拶で返す。
「おはようは、ええねん。電話代が十五万って、どういうことや。」
「え、なに、なんて。」と、言い訳を思いつくまでの時間を稼ぐ。
「だから、お前の部屋の先月の電話代が、十五万やねん。」
「は、はぁ、えらいボッタクリやな。」と、笑いに持っていけないか試みる。
「NTTがボッタクリするかぁ、ゴラァ!」
「あ、そうや。俺、国際学部やろ。世界の人に電話する用事があってな。」
「それを早よ言えよ。それやったら、ええねん。(ガチャッ)」

 もちろん、学校に行っていない俺には、電話をかけなければいけない”世界の人”などいない。仮に学校に行っていたとしても、電話をかけるべき”世界の人”なんているはずもないけど、勉強のためだと言えば、オヤジは納得してくれた。
 

 それにしても、まさか電話代が十五万円にもなるとは思っても見なかった。相変わらず女のことしか頭にない俺は、現代の流行に乗って、伝言ダイヤルに夢中になっていた。可愛い女の子と出会うためにアルバイトをするなんていう時代は過ぎ去り、今や、家に居ながらにしてナンパができ、しかも出会いを求めている女の子だけをターゲットにできる時代が到来していた。伝言ダイヤルは、まるで神様から俺への贈り物のような仕組みだった。
 さすがにオヤジからの電話には、すこし気持ちが滅入ったけど、もうすぐ釣れそうな魚をみすみす逃す訳にはいかない。#(シャープ)と四桁の専用番号を押して、伝言ダイヤルの昨夜の釣果を確認する。やはり入れ食い。どのような言葉が女の子に響くのか、僅か三十秒間で最大限の好印象を与えるにはどうすれば良いのかを徹底的に研究した甲斐があって、俺の伝言メッセージには、女の子が大量に集まってきた。今夜も、明日も、明後日も、週末も、新しい女の子とのデートの予定が入った。数週間かけてじっくり口説いている女の子とも、来週には会えそうだ。これは十五万円を払っても惜しくない。まぁ、俺が払うわけじゃないけど。
「二十四時間戦えますか~♪って、女のためなら何時間でも戦ったるわ。」と、頭の中のオヤジを勢いよく吹き飛ばして、今晩のデートプランを組み始める。いつでも最終目的地はホテルだけど、ホテルにたどり着くまでに、どんなことをして女の子を楽しませてあげようかと考えるのも楽しい。どうせ今夜だけの彼女、最高の思い出を作ってあげるのが、俺の腕の見せどころだ。
「最近、忙しそうだね。」
「そうやねん、新しいバイトでスタッフが足りんからな。」
「ヒロくんは優しいから、こき使われてるんじゃないの。」
「店長を助けてあげたいねん。」
「あんまり無理したらダメだよ。」
「分かってる。ありがとうな、アキコ。」
どれだけ新しい女の子と出会っても、アキコは別格でイイ女だと思う。今日は、元町に新しくオープンした和食屋に行きたいという彼女のリクエストに答えて、ランチデートだ。具合が悪いのではないかと俺の体調を気遣ってくれるアキコには申し訳ないけど、俺の頭のなかは今晩のデートプランでいっぱいだった。
「忙しいのに、わざわざ時間を作ってくれて、本当にありがとう。」
「ええねん。アキコと会ったら元気になったわ。」
さぁ、今夜も元気に、夜の街に出掛けよう。

第32話 伝言ダイヤル 第32話 伝言ダイヤル
大平透,梅野かおる,児玉征太郎,巻島直樹,クニ・トシロウ,米谷良和

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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