この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二話「老け顔」

time 2015/10/20

第二話「老け顔」
 ニキビ面でオッサンみたいな老け顔の自分が、好きじゃない。

 俺の顔は母親に似ていると親戚からは言われるが、母親に似ていてオッサン顔というのが一体どういうことなのか、俺には理解できない。ラグビー部の主将であることを前面に押し出して、なんとか付き合ってくれる女の子を見つけることが出来たけれども、それでも、とにかく全くモテない高校生活を送った。

 男子校だったことは、全く言い訳にならない。同級生の中には、近くの女子高にファンクラブが出来るほど人気があるヤツもいた。顔がカッコいいし、身長は高いし、全身をブランド物で着飾っているお洒落さん、そんな三拍子そろったヤツらが同じ学校に何人かいた。あんなヤツらとまともに勝負しても勝てるわけがない。神童たちに囲まれて頭で勝負することを投げたのと同じく、”三拍子”たちに囲まれて容姿で勝負することも投げていた。

  でも、老け顔であることにも、ひとつだけ良いことがあった。風俗に行っても、年齢を理由に入店を拒否されたことが一度もない。初めて風俗に行ったのが高校に上がったばかりの5月のことだった。追い返されるんじゃないかと内心ドキドキだったけど、あっさりと入店を許された。俺を大学生だと思い込んでいる店のスタッフから「アルバイトしないか」と誘われたことさえあった。大学生に間違われる高校1年生、かなり重症だ。

「そうや、俺もいよいよホンモノの大学生になるんやな・・・」と、明日の大学入試のことが頭をよぎったとき、「とんかつ にいむら」の看板が目に飛び込んできた。受験のために東京に行くことが決まってからというもの、ずっとこの時を楽しみにしていた。古文の書き出しを暗記するかのように「歌舞伎町一番街の看板の下を通って、真っ直ぐ行って、”とんかつのにいむら”を過ぎてから左に曲がる」と何度も何度も繰り返し、頭のなかで復唱していた。

「ファッションヘルス優良店!歌舞伎町ならワンダラー!」

 学生寮に置いてあった誰が買ってきたのかも分からない男性誌で、小さな囲み記事を見つけた。“ファッションヘルス”という言葉のハツラツとした響きと、その裏に隠された卑猥さが相まって、俺の頭のなかに悶々とした桃色のアドレナリンが満ち満ちた。
 
 四国で通った風俗といえば、ほとんどがピンサロ。正式には“ピンクサロン”と呼ばれる風俗で、ソファー席に女性と隣同士で座って、性的なサービスを受けるという形態のものだ。もちろん、これはこれで大好きだ。でも、いい加減、飽きた。老け顔の高校生が身体の中に溜め込んでいる興奮を発散させてくれる何かを、俺は求め続けていた。

 さらに、四国の風俗には、もうひとつの大きな不満があった。ピンサロで俺の隣に座る風俗嬢が、母親と同い年くらいのオバハンなのだ。オバハンはオバハンで大好きだ。でも、若い女性の方が良いに決まってる。どうやら「ワンダラー」には、二十代の若い女性が多数在籍しているらしい。

 父親から「しっかり頑張って来いよ!」と尻を叩かれて京都の実家から足を踏み出したとき、俺は心の中で、早稲田に行くんだ!という思いよりも強く、絶対にワンダラーに行かなければならない!と誓っていた。

 ワンダラーを紹介する囲み記事には地図も添えられていたが、わずか3本の線だけの単純な地図で、そこに「歌舞伎町一番街」と「とんかつ にいむら」、そして「ワンダラー」の3つの文字が添えられているだけだった。こんな少ない情報で本当に辿り着けるんだろうかという不安を、遠く四国の地で感じていた俺は、遥々訪れた東京・新宿歌舞伎町で「とんかつ にいむら」の看板を見て、思わず「あっ」と声をあげた。

芸術・人文人文小説現代小説『この男、猥褻につき』序章>第二話

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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